事典エイト - 新興宗教への警告 - 第2章 魔術が栄えると国が滅びる

カリオストロ伯爵

 カリオストロははっきり言って貴族などではありません。伯爵というのは詐 称であって、もともとはシチリア島のパレルモのチンピラでした。ところが、 どこで習ってきたのか彼はいつのまにか降霊術をマスターし、病気治療の術も マスターしたようです。そして、ヨーロッパ各地を渡り歩いていきます。彼と 彼の妻ロレンツァが新しい町に着くとまず小さな治療所をはじめます。そこで は、おもに貧乏な人たちを非常に安く、時には無料で診察し、治療していまし た。そして、場合によってはカリオストロが貧乏な人たちに施しをすることも あったようです。

 このような行為はいつの時代でもすぐ町の話題になります。お金のない人が どんどんやってくるようになると彼はろくに寝ることもできなくなりますが、 それでも最初のうちは一生懸命、医療活動をしています。そして、町中に噂が 広まった頃になると彼はその町の有力者を集めて降霊術の会を開催し、その中 で魔術や奇術を見せて金持ちたちを信用させます。彼らが信用しきったところ を見計らって銀を金に変えるとか言って金持ちから多額の金品を集めてドロン するのです。そして、次の町で同じことの繰り返し。

 後から考えてみればどうして町の有力者たちがそんなに簡単に騙されたのか 不思議ですが、彼の魔術と東方の宗教に関する知識、彼の妻の若さと美貌、そ して何より、イエスキリスト以来、不思議な術を使って病気を直す人への尊敬 と憧れが彼らの疑いに待ったをかけていたのでしょう。また、時には有力者の 秘密を握って彼に協力させることもしていたようです。

 昔のことですから、通信手段もなくて彼の悪評はなかなか広まりませんでし たが、そのうちに彼の正体を知った人たちもでてきます。そして、彼はフラン ス革命の直前にあの有名なバスチーユ牢獄に収監されてしまいます。しかし、 貧しい人々は彼を解放するように要求しました。彼らにとっては無料で治療し てくれる神様のような存在だからです。このように彼と妻はヨーロッパ中を渡 り歩き、「奇跡医」と「詐欺師」の評判を残していきます。そうこうするうち に、彼は妻の願いもあって彼女に出会ったローマに帰ります。しかし、カトリ ックの総本山が彼の行動を知らなかったはずはありません。すぐさま彼は捕ら えられ、そしてついに獄死します。一説には暗殺とも言われていますが確たる 証拠はありません。

 彼はいったい何者だったのでしょうか。一生遊んで暮らせるだけの金品を巻 き上げておきながら、彼はまた新しい町に行って危険な遊びを始めるのです。 そして、前の町で儲けた金の多くを新しい町の貧乏人の救済に使ったのでした。 彼こそがフランス革命の真の立て役者だという人もいます。それは考えすぎに しても、彼の行動は倫理的にもその当時の法律から見ても全く犯罪者の行動な のですが、貴族や金持ちから金品を奪い、それを貧乏人に分け与えるというの はフランス革命の思想そのままなのです。彼の引き起こした騒ぎがフランス革 命の導火線のひとつになったことは間違いのないところです。

 フランス革命とそれに続くナポレオンの時代にどれだけ多くの人の血が流さ れたことでしょうか。それを考えると私は絶対王政を打破して民主主義の時代 を開いたフランス革命といえども無批判に肯定することはできませんし、その 片棒を担いだのではないかと疑われるカリオストロに対しても批判的にならざ るをえないのです。そして、私たちはフランス革命という大混乱の時代におい ても、ひとりの魔術師の存在に気づくのでした。


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