事典エイト - 新興宗教への警告 - 第2章 魔術が栄えると国が滅びる

ブラバツキー夫人

 最後に19世紀最大の霊媒師ブラバツキー夫人を御紹介しましょう。彼女は カリオストロのようなヤクザな生まれではなく、れっきとしたロシア貴族の娘 でした。ブラバツキー将軍の妻となったことからブラバツキー夫人と呼ばれて います。彼女は若い時から霊媒として有名でした。その後、インキ工場や造花 商などの事業を手掛ける一方で世界の秘境を探険し、探険家としても名をはせ ました。さらに、キリスト教を非常に嫌悪し、反ローマ教皇の立場にたつ義勇 軍に参加して負傷までしています。このような波乱に富む人生の間に宗教学、 民俗学、博物学を研究し、ラマ教、カバラ、エジプト魔術といった異端にも精 通していきます。そして、1875年にニューヨークに神智学協会を設立しま した。1880年には仏教徒となり、その2年後にはインドに移住します。

 彼女の試みはキリスト教文明の中で失われていった古代の秘教的な技術を再 発見し、現代の自然科学的方法論の限界を示して新たな宗教的理論体系を構築 し、世界の宗教、民族の対立を解消しようとするものでした。彼女の著作は世 界各地に大きな影響を及ぼしました。なかでも彼女の弟子のベサントはインド の支配政党であるインド国民会議派を指導し、インドの独立と以後のインド政 界における理論的な基盤を確立しました。同じく彼女の弟子のシュタイナーは 人智学を創始し、古代の秘教技術を現代社会に生かす道を模索し、有機農法や 心霊治療などを開発、普及しました。とくにオランダの人智学協会は当時オラ ンダの植民地であったインドネシア独立運動に理論的な根拠を与えました。日 本でも禅の鈴木大拙や大本教の出口王仁三郎などブラバツキー夫人やシュタイ ナーの影響を受けた宗教家や思想家、文学者を多数輩出しております。

 彼らの運動は産業革命以後のヨーロッパ世界において、キリスト教の神通力 が失われつつある中で生まれてきました。カトリックやプロテスタントの教え になかった発見や発明が相次ぐ中で人々はエジプト、ヘブライ、アラビア、ペ ルシャ、インドなどの文明に心のよりどころを求めたり、あるいは逆にそれら の文明の中から新たなる金儲けのネタを捜そうとしたのでした。このような欧 米人の一部にブラバツキー夫人やシュタイナーのようなアジアやアフリカの人 々の立場を尊重すべきだという考えが広まっていったのも事実です。

 しかしながら、現代のインドやインドネシアの現状を見ると考えさせられる ことが多いのも事実です。インドのイスラム教の排斥を目指す宗教暴動は時々 わが国のマスコミでも取り上げられますが、インドの内情は厳しいカースト制 のもとでほんの一握りの大富豪が欧米の大富豪と手を組んで大もうけをしてお り、その下で多くの庶民が貧乏な暮らしをしています。また、インドネシアに してもわが国は最大の経済援助をしているわけですが、それが本当にインドネ シアの国のため、庶民の皆さんのためになっているのでしょうか。第2次世界 大戦後、多くのアジア・アフリカ諸国が独立しました。しかし、それらの国は 本当に独立前よりも良くなっているのでしょうか。

 ブラバツキー夫人の運動は2つの世界大戦の大波に飲み込まれてしまったか のように見えます。しかし、彼らの主張とは裏腹に彼らの運動の後を追いかけ るように2つの世界大戦が起こり、その中で無数の人々が死んでいったという のが歴史的な事実です。そして、19世紀末から20世紀前半のこの時代は 36、000人の死者をだしたインドネシアのクラカタウ島の爆発や、 28、000人の死者をだした西インド諸島マルチニーク島の爆発、さらに 142、000人という途方もない死者を記録した関東大震災などの天変地異 が頻発した時代でもあったのです。そして、いつものように、同じ時代に偉大 な魔術師たちが活躍していたのでした。


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