では、何故、戒律が必要なのでしょうか。道徳を守ることがその教団の発展 にとって必須だからだ、というような論調を時々耳にしますが必ずしもそれだ けではありません。戒律が必要なのは宗教的な生活にとって必須のものだから です。決して、他人によく見られたいとか、その方が教団にとって有利だから というのではありません。戒律を守らないと宗教活動のなかで思わぬ副作用に 遭遇するからです。戒律を守るということは宗教家にとっては自分を守るため に必須のことなのです。安全に、そして確実に宗教活動を実践していくために 守るべきことを戒律としてまとめているのです。
ですから、宗教活動の程度や奥の深さによって守るべき戒律が違ってきます。 仏教ではお坊さんはかなり厳しい戒律を守らなければなりませんが、一般の檀 家の人は三戒とか五戒程度でいいとされています。また、旧約聖書では臨在の 幕家の中に入るレビ人には服装などに対しても極めて細かな定めがありますが、 一般の人に対する服装の規定などはかなりゆるやかです。これも臨在の幕家と いう特別な場所では不測の事態が起こりやすいということから来ているのでし ょう。戒律にない炭火を焚いたアロンの子のナダブとアビフが死んでしまった という記述がレビ記ありますが、戒律というものの重要性を教訓的に述べたと いうよりも、戒律を守らなかった人が実際に死んだという事実があったのでし ょう。