緊迫化するボスニア情勢

カーター元アメリカ大統領の調停による4か月間の停戦期間が過ぎたことにより、
ボスニア内の各勢力は再び軍事活動を強化している。特にボスニア政府軍は停戦
期間を有効に利用して武器弾薬を大量に購入し、その軍事力を強化した。そして、
首都サラエボ近郊の軍事拠点のいくつかをセルビア勢力から奪観することに成功し
た。

これに対してセルビア勢力側は対決姿勢を鮮明にして国連保護軍下にあった重火器
を奪還してボスニア政府軍と激しい戦闘を行っている。NATO軍は国連の要請を
受ける形でセルビア勢力側の陣地に空爆を行ったが、セルビア勢力側はこれに対抗
して国連防護軍の要員を人質として空爆されそうな地点に手錠でつなぐという非常
手段に訴えた。

国連防護軍に人員を派遣しているフランスなどは安全が保障されないのなら要員を
引き揚げることを表明したが、NATO軍とセルビア勢力側は空爆をしないかわり
に人質を解放することで合意した模様である。しかしながら、NATO勢力は陸上
部隊を増強している。

さて、以前から指摘されているように、ベルリンの壁崩壊とソ連邦消滅によって米
ソ冷戦が終結した結果、国際的な軍需産業グループは経営危機に陥った。そこで、
この危機を打開するために彼らは積極的に地域紛争を画策してきた。その結果、ア
フガニスタン、カンボジア、ソマリア、ユーゴスラビア、ルワンダ、チェチェンな
ど従来からの紛争地域を中心に戦闘行動の活発化が見られる。

本来、大きな軍事力を持っていなかったボスニア政府軍とボスニア国内のセルビア
人勢力が、これだけ長い間、激しい戦闘を続けられることに疑問を感じられる方も
多いはずである。しかし、先に述べた国際的な軍需産業グループが裏で両勢力に武
器弾薬を供給していると考えるならば、説明はつく。例えば、平和使節であるはず
カーター元大統領の行動は、結果として敗北寸前のボスニア政府軍を盛り返させて
ボスニアでの戦闘を長期化させるのに役だったのである。そして、国連のガリ事務
はことあるごとに軍事力の行使をちらつかせてセルビア勢力を怒らせているのであ
る。このあたりの詳しい事情は広瀬隆氏の著作を読まれるとよく理解できるであろ
う。

ただし、米ロEU諸国ともに、第1次世界大戦勃発の地であるサラエボ周辺での戦
闘の激化を必ずしも望んでいるわけではない。彼らは兵器や弾薬が売れればいいの
だから、散発的な戦闘の継続を望んでいるのである。もし、大規模な戦争状態にな
れば多数の難民がヨーロッパ地域に押し寄せることになり、それによる経済や治安
の悪化は現在のヨーロッパ各国の政権を倒しかねない危険性を持っている。軍需産
業グループを中心とする「危険な遊戯」は一歩間違うと第3次世界大戦すらひきお
こしかねない危うさを持っていることに留意すべきであろう。


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