ペルー日本大使公邸占拠事件

12月17日、ペルーの首都リマにある日本大使公邸に左翼ゲリラ「ツパクアマル 革命運動(MRTA)」が押し入り、公邸を占拠した。ちょうどその時、 天皇陛下のご誕生のお祝いのパーティーが開催されており、ペルーの外務大臣、 各国大使、日系人、日本企業関係者ら600人以上がそのパーティーに 出席していた。

その後、MRTAは老人、女性、子供を開放し、交渉役としてカナダ大使や ブラジル大使、韓国大使らを開放した。さらに、天皇誕生日当日になって、 日系人らを中心に200人以上を開放した。そして、12月29日現在、 青木大使以下93人が依然、人質となっている。

MRTAはセンドロルミノソなどとは異なり、誘拐による身代金獲得に 慣れており、人質などへの対応は今のところ冷静であるようだ。しかし、 ライフルはもとより、地雷や対戦車ロケット砲まで用意して完全武装しており、 単なるテロリストグループというよりも、共産主義革命を目指す軍隊と言った方が 適切であろう。

すでに各マスコミで紹介されているように、ペルーは一時の破滅的な経済状況 からは脱却したものの、依然、貧富の差は大きく、フジモリ政権が大企業優先の 経済政策をとっていることもあって貧困層の不満は大きい。さらに、フジモリ政権の 改革路線の中で、既得権益が制限されだした欧米資本と、彼らの恩恵にあずかって きた一部のペルー人の間でもフジモリ大統領の人気は低い。

その間隙を衝いたのが今度の日本大使公邸占拠事件である。フジモリ大統領は 日系人であり、フジモリ政権成立以降、日本政府も日本の大企業もペルーへ多額の 援助や資本投下を行ってきた。フジモリ大統領は婦人と離婚騒ぎも起こしており、 彼とそのバックにいる日本をターゲットにすることは、ペルーの貧しい一般 国民への絶好のアピールとなると考えたのだろう。

しかしながら、フジモリ政権が硬軟両様の構えで、慎重な対応を続けているため、 MRTAの行動は、むしろ逆効果になりつつある。クリスマスイブ前日には、 人質解放を求める大規模なデモ行進もあったが、必ずしもフジモリ政権に親密 とはいえない国の外交官や一般の商社マン、日系人を多数人質とするやり方は 所詮、単なるテロリストの所業であり、政治的に見れば稚拙なものである。

ただ、いまだに金持ちから絞り取って貧乏人に分け与えるという「共産主義」 思想が健在な地域が存在するということは残念なことだ。「共産主義」が 幻想であるということは、このインターネットライニングの中でも再三再四 述べられているところだが、その「幻想」をてこに地域の緊張を高め、 軍需物資を売り歩いている「死の商人」が暗躍しているからこそ、このような 事件が起こるのである。

グリーンベレーで大尉として実線経験の豊富な柘植久慶氏の著書、 「スペシャル・フォース(原書房)」には、イギリス特殊部隊であるSASをはじめ、 各国の特殊部隊についてのレポートが書かれている。そして、最後に、 「特殊部隊を創設せよ」との1章まで設けられている。その理由は、まさに テロリストによる飛行機などのハイジャックや日本の外交官などの誘拐に 対処するためだということだ。

彼の悪い予想はものの見事に当たってしまったわけだが、ただ単に特殊部隊を 創設して、テロリストの行動を未然に防止し、いざというときには、できるだけ 人的損害を小さく強行突入する、というだけではモグラたたきにすぎない。 誤った思想を正し、腐敗している政権を浄化し、死の商人たちを排除していく ことが、遠いようで結局は問題解決への最短ルートなのである。そのことを 肝に銘じて、われわれは発展途上国諸国とつきあっていかねばならない。


プリンタ&年賀状ソフト特集

事典エイト

今月の国際情勢