急展開した東アジア情勢

東アジア情勢が急展開している。

ほんの2週間ほどの間に、中国の最高実力者であったトウ小平氏が死去し、 北朝鮮では、最高権力者、金正日書記の家庭教師を勤めた人物が中国の 韓国大使館に亡命し、現職の国防大臣と第1次官が相次いで病死した。 また、首相も更迭された模様だ。さらに、韓国亡命中の、金正日書記の 前妻の甥が暗殺された。

いったい何が起こっているのか疑問に思われる方も多いであろう。 これらのできごとの根っこにあるのは、どうやら香港の中国返還らしいのだ。 トウ小平氏は「1国2制度」という言葉を作って、現状の資本主義体制の ままで香港を中国に返還することを決めた。後をついだ江沢民政権も この方針を堅持している。なぜなら、世界有数の金融、貿易の中心地を 無傷で中国に組み込むためには、現状のかなりの部分を認めるしか ないからだ。無理矢理、社会主義体制を押し付ければ、現在の香港の 繁栄は終わりを告げるだろう。

ところで、1ー2年前からトウ小平氏の健康状態の悪化がマスコミを 通じて報道されることが多かった。公式の場に姿を見せなくなってからは、 死亡説も時々流されていた。おそらく病状はきわめて深刻なものだったと 推察されるが、江沢民体制が必ずしも盤石ではなかったことから、トウ小平氏に は、どうしても生きていてもらわなければいけなかった。

一方、香港返還後の中国がどうなるかは未知数だ。香港変換後にトウ小平氏が 死去すれば、それがきっかけとなって権力闘争が起きかねない。というのは、 トウ小平氏自身は四川省の出身と言われているが、政治的には香港の北の 広洲閥に属する。香港が返還されれば必然的に広洲閥の政治経済上の発言力が 強まるはずだ。上海閥の江沢民氏としては、せっかく固めた政治権力を 広洲閥関係者に横取りされるのではないかという危惧があろう。

一方、この時期にトウ小平氏が死去して、江沢民氏がトウ小平路線を継承する ことを内外に表明すれば、江沢民氏はトウ小平氏の後継者として香港返還を 平和裏に遂行し、広洲閥関係者からの信頼を勝ち取ることができる。 そして、彼はトウ小平氏の葬儀と全国人民代表者会議(日本の国会に当たる)で、 トウ小平路線を継承することを高らかに宣言した。

香港が「1国2制度」のもとで返還されるということは、中国はいずれ社会主義を やめるということでもある。共産党員という貴族が中心となって政権を維持する 変則的な政治体制のもとで資本主義経済体制を歩むということだ。ソ連が崩壊した 今、北朝鮮も社会主義を強調していたのでは、まともに援助も得られなく なってきている。

北朝鮮は、金日成主席の急死、度重なる洪水、金正日書記の政権運営のまずさ などがあって、経済的にも外交的にも追いつめられている。 外国からの援助なしにやっていけないのは明らかだ。しかし、金日成主席時代からの 主体思想という変則的な社会主義思想を中心とした国家運営では、思うように 外国からの援助は得られない。だからといって、これをやめれば南北統一、 金一家を中心とする北朝鮮支配層の没落につながりかねない。へたをすれば、 命も危ういだろう。

そこで、北朝鮮の政権中枢部では、ゆるやかな民主化と金一家中心の体制の維持を 真剣に検討しているはずだ。その過程で邪魔になるのは、主体思想を推進した 思想家と、韓国を軍事的に統合する夢を追っている古参の軍人達だ。そういう 人物達が亡命したり、病死してくれれば、新たな担当者のもとで、諸外国からの 援助を引き出しやすくなるだろう。かわいそうな金正日書記は、ここに来て やっと実権を獲得して、正しい道を歩みだしたのだ、ということにすれば良い。 諸外国の外交、軍事関係者は信じなくても、国民を信じさせることは可能だ。

ついでに日本のことを触れておけば、香港返還後の中国の躍進をにらんで、 昨年末から日本の株と円が売られてきた。しかし、ここへ来て、トウ小平氏 の死去、北朝鮮の混乱という中国にとってのマイナス要因が浮上してきた。 一方、日本関係ではペルーでの日本大使公邸占拠事件での予備的会話の進展、 レバノンでの日本赤軍関係者の逮捕拘束、小沢一郎新進党の混迷などの 、わが国にとってプラスの材料がでてきた。そのため、株価も1万9千円台を 回復し、円安にも歯止めがかかってきた。

未来のことは予測するのがむずかしい。ただ、ここ1年は、東アジア各国ともに、 手探りで21世紀のための体制固めをすることになろう。そして、この1年の 善し悪しが各国の今後を大きく左右することになる。


プリンタ&年賀状ソフト特集

事典エイト

今月の国際情勢