クリントン政権の大失策

アメリカは世界帝国になる道を自ら閉じてしまった。 これが人類にとって吉とでるか凶と出るかはわからない。 しかし、21世紀が混沌の世紀になることだけは確かだ。 もっとも、世界大戦の世紀であった20世紀よりはましなのかもしれないが。

こういうことを書くと、「ソ連が崩壊し、ヨーロッパが欧州統合を前に混乱し、 日本や韓国といったアジア諸国が経済危機に陥っているなかで、 アメリカだけが好景気を維持し、軍事、外交の両面でも世界のリーダーシップを取っているではないか。 技術面でもインターネットやバイオテクノロジーなど先端科学分野で強く、 むしろアメリカの世界制覇への道は近づいたのではないか」と反論される方もあるかもしれない。

しかし、それは全く反対なのである。今のアメリカは他国と比較しての超大国にすぎないのだ。 たしかに、核兵器や偵察衛星、空母機動部隊の量と質では他を圧倒している。 しかし、核兵器の使用には強硬な国際世論の反対が予想されるし、 大陸の内陸部に対しては空母機動部隊の価値は少ない。 通常兵器では必ずしも圧倒的な軍事力を持っていないことを考えると、 アメリカ1国で世界を制覇できるほどの軍事力があるわけではない。

また、まだまだヨーロッパの経済力は侮れないし、 急速に力をつけてきた日本などのアジア諸国やロシア、中国など強敵が多く、 アメリカの経済力は世界の1/5程度にすぎない。 むしろ、その程度の経済力で大規模な軍事力を持ち、 世界の外交舞台の全てに顔を出さざるをえないことが、アメリカを苦しめている。

世界史をひも解けばわかるように、ローマ帝国やサラセン帝国、モンゴル帝国ですらも、 従属する国や民族の制度や風習にはかなり寛容であった。ただ、彼らは実績を示して、 自分たちに従うことの利を説いた。そして、どうしても従わなかった国だけを征服していったのだ。

ソ連崩壊まではアメリカは実績を残してきた。 自国が豊かになっただけではなく、アメリカに従った西ドイツ、日本、韓国、台湾なども、 軒並み経済発展をとげた。そのことがまさに、東ヨーロッパ諸国や中央アジア諸国が、 そして、ロシア国民自身がソ連を見限った理由だった。

しかし、ソ連崩壊後、アメリカは驕りはじめた。 アメリカは同盟諸国に対しても、厳しい姿勢で臨むようになり、 その結果として、イギリスの保守党は労働党に政権の座を譲り渡し、 韓国はIMFの融資を仰ぐという、開発途上国なみの屈辱を味わうことになった。 わが国、日本でも拓銀、山一といった大手金融機関が連鎖倒産して、 恐慌寸前の経済状況に陥ってしまった。 その他、世界各地でアメリカを支援ないしは支持してきた諸国、 諸勢力は軒並み苦しい立場に追い込まれている。

共和党が過半数を占める連邦議会という足かせがあるのは事実だが、 クリントン政権の外交、経済政策は、あまりにも自国優先でありすぎた。 IMFの融資を受けることを決めた後でも韓国のウオンは下がり続けている。 これはアメリカ政府筋が、一層の貿易自由化を融資の見返りとして要求しているからに他ならない。 クリントン政権を支える大企業にとっては、確かにその方が都合がいいだろう。 しかし、アメリカの国益を考えればまったく間違った政策である。 貿易障壁に守られて発展してきた韓国経済が破綻している時に、 より一層の貿易自由化を要求すれば、ますます韓国の大企業は苦しくなり、 韓国経済が悪化するのは目に見えている。

このままでは、アメリカはアジアにおける多数の友人を失い、 21世紀には日本以外の多くのアジア諸国が社会主義化、もしくは専制君主化することになる。 そうなれば、中国の共産主義者達は大喜びである。 また、ソ連の復活ということも、ありえないことではない。 少なくとも、アメリカの国力は今よりもかなり落ちることは間違いない。

確かに、一時期、アメリカは日本や韓国、台湾に押されて経済状態が思わしくなかった。 しかし、それを乗り越えるだけの貯えと知恵は持ちあわせていたのだ。 事実、クリントン大統領の1期目にアメリカ経済は持ち直し、 彼は大統領に再選された。 クリントン大統領は、大統領再選後、ただちに経済引き締め策に転じるとともに、 ヨーロッパ、アジア諸国に対する外交政策を転換すべきであった。 しかし、ロシアのエリティン大統領はかろうじて再選されたものの、 イギリス、インドで立て続けに親米政権を失い、韓国、日本ともに、 現政権が維持できるかどうか、微妙な段階に来ている。

多くの友人を失ってしまったアメリカが、今後どのような巻き返し策にでるのかわからないが、 21世紀の世界は絶対的な信頼できるイデオロギーを失って、迷走を続けることになるだろう。


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