米越国交回復とミャンマー情勢




先日、アメリカ合衆国はベトナムとの国交回復を表明した。アメリカの敗北で

終わったベトナム戦争以来、犬猿の仲であった両国も、冷戦の終結による国際

情勢の変化のなかで再び国交を回復することになったのは喜ばしいことである。

では、この米越国交回復によって東南アジアの情勢はどのように変化するので

あろうか。



実は、国交回復表明の直前にすでに行動を起こした国があった。それはミャン

マーである。ミャンマーの軍事政権はアウンサン・スー・チー女史を軟禁する

など、国内に対しては強圧的な姿勢で臨み、国外に対してはなかば鎖国状態と

なっていた。しかし、冷戦の終結による国際情勢の変化と、国内の反政府勢力

に対する掃討作戦の成功によって、昨年あたりから徐々に国内の融和策を進め

てきた。また、外国の一部のマスコミに対しても制限付きではあるが国内の取

材を許可するようになってきていた。



国際世論は当然、スー・チー女史の解放を要求していたわけであるが、ミャン

マーの軍事政権は米越国交回復表明の直前という絶好のタイミングで女史の解

放を実施した。これは東南アジアにおけるアメリカの勢力拡大と平和気運の高

まりに先手を取って、軍事政権から民主的な政権へ軟着陸をはかりたいという

メッセージであるとともに、政権の情報収集力の高さをそれとなくアピールし

ている点も見逃すことはできない。



何人でも歴史を逆に回転されることは不可能である。そして、歴史は冷戦時代

を終えて、新たな平和な時代を迎えようとしている。その流れの中でなんとか

生き残りたい。そんなミャンマーの軍事政権の想いが伝わってくるようである。

これはまた、欧米の一部のマスコミの論調とは裏腹に、北朝鮮指導部の想いで

もある。彼らはたしかに軍事政権であり、国民の自由を制限し、国民の富の一

部を搾取しているかもしれない。しかし、彼らは欧米と戦争をしたいと思うほ

ど馬鹿ではないのである。そんなことをすれば全てを失ってしまうかもしれな

いからのだから。



戦争を望んでいるのは、むしろ欧米を中心とする軍需産業グループである。先

月号でも少し述べたが、彼らは北朝鮮の危険性をことさらに煽り、中国の人権

無視の政策を口をきわめて非難している。これは、決して、朝鮮半島や中国に

住む人たちのためを思っての行動ではない。彼らは緊張を煽り、紛争を起こし

て兵器を売り込みたいだけなのだ。



米越国交回復に際しても、さっそく彼らの意を受けたマスコミは南沙諸島の問

題を取り上げている。東シナ海に浮かぶ南沙諸島周辺には石油などの鉱物資源

が豊富に埋蔵されているといわれ、それをねらって中国、台湾、フィリピン、

ベトナムなどの諸国が領有権を主張している。しかし、当該地域に対する軍事

的影響力を武器に、中国政府は南沙諸島に艦艇を派遣し、すでに要員も常駐さ

せている。そういう意味では、すでに勝負はついているのであるが、台湾政府

はアメリカ系企業などに対して油田鉱区の入札を実施するなど、抵抗の姿勢を

崩していない。



南沙諸島周辺での緊張が高まれば、東シナ海を航行する船舶にも影響がでるた

め、わが国としても無視できないことは確かである。しかし、中国が開放政策

をとり、南北朝鮮の間での対話、米越国交回復、スー・チー女史の解放と続く

流れは紛争とは正反対の方向を向いているのは間違いのないところであろう。



一方では、米越国交回復は中国の覇権拡大に対する両国の危機感の現れと報ず

るマスコミもある。たしかに、アメリカ軍基地のフィリピンからの一部撤退な

どにより、軍事バランスが中国に若干偏ったのは事実であろう。しかし、それ

をことさらに宣伝し、東南アジア各国に大量の兵器を売りつけたのは他ならぬ

軍需産業一派である。そもそも、中国は本格的な航空母艦や早期警戒機すら持

たない。あのイラクですら早期警戒機は持っているのにである。中越紛争で中

国が苦戦して以来、中国軍の近代化は進んでいると伝えられているが、最新鋭

の米国製兵器で固めた東南アジア諸国にとって、中国はそれほどの軍事的な脅

威なのであろうか。



結局、新たな市場を求めるアメリカと、経済の再建と国際社会への完全復帰を

めざすベトナムの思惑が一致したために米越国交回復は行われたのである。こ

れは軍需産業一派のプロパガンダに乗せられることさえなければ、平和へのま

っすぐな道であるはずである。




事典エイト

今月の国際情勢