日本の混迷が世界を救う?

最近の日本は混迷している。この事実に異論はないであろう。今年1年だけを
振り返っても、阪神大震災、東京協和、安全信用組合問題、地下鉄サリン事件、
オーム真理教に対する一斉捜査、統一地方選挙での青島東京都知事、横山大阪
府知事の誕生、急激な円高、参議院選挙での与党各党の敗北とその後の内閣改
造騒ぎ、コスモ信用組合の倒産など、普通なら年間10大ニュースのトップに
来るような事件が目白押しである。

何故、このように日本は混迷しているのであろうか? それは、日本が今、歴
史の転換点に差しかかっているからである。本誌で連載中の「新興宗教への警
告」でも述べているように、歴史の転換点では何故か天変地異が多く起こり、
あやしげな新興宗教がはやる。後世の歴史家たちは、平成時代の日本の混迷を
歴史の転換点の好例として、彼らの教科書に取り上げることだろう。

さて、その日本の混迷は世界にどのような影響を与えているのだろうか。日本
の権力者たちは、次々起こる大事件の処理におわれて、長期的な戦略を立てら
れないばかりか、円高対策のような緊急を要する問題への対処も遅れがちであ
る。それで、円高は長引き、国内に沈滞ムードが広がっている。その結果とし
て日本経済は不況から脱出できず、日本企業の活力も衰え気味である。

一方、アメリカは5年以上も好景気を維持している。ブッシュ政権以来の低金
利政策に加えて、クリントン政権の円高容認の態度は、日本に追い抜かれそう
だった自動車などの民生部門の産業に対するカンフル剤となるとともに、コン
ピュータネットワーク関連などの新産業部門の育成に顕著な効果を示した。冷
戦終結によって需要の多くを一挙に失った軍需産業も、その「営業努力」のか
いあって倒産という最悪の事態を回避できた企業が多く、好景気に支えられて
合併や民生分野への転換も軌道に乗りつつある。

ヨーロッパ諸国は、国によって若干の格差があるものの2年半程度、景気回復
基調にある。東西ドイツの統一、ソ連の崩壊など、ヨーロッパはここ10年ほ
ど激動の時代であったが、旧ユーゴ紛争やマルクの独歩高による通貨統合への
不安など、問題点を残しながらも徐々に落ちつきを取り戻しつつある。

円高によって日本からの集中豪雨的輸出にブレーキがかかり、日本企業の海外
投資額が大幅に増えた。これが、冷戦終結後の欧米諸国の経済にとって大きな
追い風になったことは確かであろう。そして、政治のみならず日本全体の混迷
が、この傾向を助長し、円高不況を長期化させているのである。

さて、混迷から抜け出すにはどのようにすればいいのだろうか? これは戦国
時代が信長、秀吉、家康といった英雄たちによって統一され、徳川長期政権へ
と進んだ歴史の流れを考察すれば簡単にわかることである。すなわち、混迷を
抜け出すには優れた政治的リーダーが必要なのである。彼は強引に混迷の原因
を取り除き、自らの信念に従って新しい時代を切り開く。それに刃向かう者た
ちは抹殺される。これが英雄である。混迷が深まれば深まるほど強いリーダー
を人々は望むようになる。

日本に強力な政治的リーダーが出現した場合、一番困るのは誰であろうか。そ
れは世界のリーダーシップを取っているアメリカの指導者たちであり、彼らを
陰からあやつっているやからである。すでに、日本は世界有数の金持ち国であ
り、その技術力も総合的に見ればアメリカにはかなわないまでも、世界一流で
あることにはかわらない。太平洋戦争前よりもはるかに強力になった日本に強
力なリーダーが出現することは、彼らにとっては自分たちの存在すら脅かしか
ねない大変な脅威なのである。

しかし、日本の混迷が永遠に続くことも彼らにとっては必ずしも良いことでは
ない。日本の混迷が続けば、日本国内に対米不信が広まり、結果として、極東
地域におけるロシアや中国の影響力を強めることになる。これは、アメリカの
世界戦略から見た場合、大きなダメージとなる。

また、日本の混迷が続けば、日本の大企業は日本に見切りをつけて海外進出を
強める。日本企業の海外進出そのものは彼らにとって決してマイナスではない
のだが、強い円を持った日本企業が欧米の先端技術を持ったベンチャー企業を
買収したり、提携したりすることは、先端産業分野における彼らの影響力を低
下させ、未来での敗北に道を開くものである。パソコン売り上げ全米トップの
パッカードベルが事実上、NECーBULLグループに入ったことなどは、そ
の象徴的な事件であった。

彼らは決断するとすばやく行動する。5月31日、7月7日、8月2日と断続
的におざなりな円売りドル買い介入を続けていた日米の通貨当局は、コスモ信
用組合の倒産騒ぎの直後から本格的な協調介入を始め、8月15日には日本の
お盆休みをねらって、日米にドイツ、スイスを加えた4か国で円マルク売りド
ル買いの一斉協調介入に踏み切った。これにより円は1ドル90円台後半まで
安くなり、日本の円高危機は5か月半ぶりに一息ついた形となった。

このように彼らは手練手管を駆使してアメリカ優位の現状を守ろうとしている。
それはアメリカの急激な突出を意味するものでも、日本やEU諸国の破滅を意
味するものでもない。彼らは現状の体制をできるだけ守りながら、新しい産業
分野での優位性を確保し、自らの利益を確保し、自らの安泰をはかっている。
これこそが、彼らが地球規模の大財閥となりえた理由であり、また、彼らが現
在もその地位を保っている理由に他ならない。




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