フランスよ、どこへ行く?

数年前にパリを訪れたことがあった。その時に印象に残ったのは オルセー美術館のそばで私を取り囲んだジプシー風の子供たちと、 地下鉄の車内の暗く沈んだ雰囲気のパリっ子たちの顔であった。

そして今年、社会党のメッテラン大統領に代わってドゴール派のシラク氏が 大統領に就任した。彼は首相やパリ市長を歴任した政界の大物で、大統領選挙 には圧勝すると思われていたが、社会党の候補に思わぬ苦戦をしいられた。 それだけ、旧来の保守勢力がフランス国民から支持されていないということ だろう。

ところが、シラク氏は大統領に就任すると、経済の活性化と核実験の 再開を表明した。ムルロア環礁でのフランスの核実験は日本のマスコミでもたびたび 取り上げられたし、インターネットライニングでも反対署名のページを紹介した。 フランスの核実験の強行はフランスがいまだに海外領土(すなわち植民地)を 持っていることと、パリコレクションで代表されるフランス文化の裏側に 軍需産業が潜んでいることを、全世界にアピールする結果となってしまった。

また、最大の懸案の経済問題でもフランの下落には一応の歯止めがかかった ものの、国内経済は好転せず、公務員給与は据え置きのままでフランス国民の イライラはつのるばかりだ。10月現在、シラク大統領に対する不支持率は 50%を越えており、制度上、大統領が失脚する可能性は少ないものの、 首相の更迭など政権のあり方そのものの転換を迫られる事態となっている。

また、EUの通貨、政治上での統合は、アメリカの強大化と日本などの台頭に 危機感をいだいたフランスが中心となって推進してきたものだが、肝心のフランス フランの弱さのために通貨統合は当分、不可能な情勢だ。また、各国とも 国内にEU統合反対派を多数かかえており、強引な統合化政策はその国の 政権の屋台骨を揺るがしかねない。結局、フランス主導でEUを統合して アメリカや日本に対抗しようという政策は、通商交渉などで一定の成果をあげた ものの、フランスの立場を大きく改善することはできなかった。

フランスにとって唯一の救いはドイツが終始一貫してフランスを支持している ことであろう。第2次大戦の反省からドイツはフランスとの友好を外交の中心 に据えて、フランスとドイツで荒廃したヨーロッパを立て直すことを目指して きた。しかし、ネオナチの台頭に示されるように、1世紀の間に2度も世界大戦を 仕掛けたドイツという国の本質は変わっていないのではないかという懸念は強い。 また、国連の50周年記念総会でシラク大統領が演説していた時にパラシュート 降下を試みた男もグリーンピースのドイツ支部員だという。国民レベルでフランス とドイツが完全に宥和するには、まだ時間が足りないのかもしれない。

シラク大統領は国連総会で日本とドイツの安全保障理事会常任理事国入りを はじめて支持した。四面楚歌の中でなんとか事態を打開したいという気持ち なのであろう。しかし、常任理事国への南半球からの参加も求めたことから もわかるように、日独の常任理事国入りはフランスの本心ではなく、 あくまでもポーズにすぎない。常任理事国の大幅な拡大には米英露をはじめ ほとんどの常任理事国が反対しており、つぶれることを承知の上での提案で ある。

日本人の感覚では欧米人はみんな背が高く体格がいいと思っている。しかし、 地下鉄車内で見たパリっ子たちは東京の地下鉄と同じくらいのサイズの座席に 座っている普通の人たちであった。もちろん、フランス人にも大柄な人は多い。 しかし、イタリア人やアメリカ人、イギリス人やロシア人などと比べれば 線の細さは否めない。だからこそ、パリコレクションはスーパーモデル嬢によって 一段と映えるのであろう。フランスの指導者たちは今なお大フランス帝国 への夢を抱いているように見えるが、所詮、フランスは王国どまりの国だという のが私の感想である。フランスの無理が今後のヨーロッパ情勢に悪影響を 及ぼさないようにと、切に願う次第である。


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