作られた危機と本当の危険

最近、世間が少し、きな臭くなってきている。ちっと振り返ってみただけでも、 ロシアのチェチェン紛争での強引な制圧作戦、IRAによるロンドンでの爆弾 テロ、カシミールでのインドとパキスタンの軍事衝突、中国軍の台湾沖での 大軍事演習、竹島問題での日韓のあつれき、などを思い浮かべることができる。

ただ、よく考えてみるとこれらの「危機」は実は今に始まったことではなく、 昔から続いている紛争の1局面にすぎないことがわかる。チェチェン紛争など ロシア帝国がこの地を侵略し始めた頃から続いているのだ。ソ連の圧制下では ゲリラ側が圧倒され、かろうじて何らかのテロ行為をしても徹底した言論統制 下のソ連では、報道されることがなかったのである。インドとパキスタン、 イギリスとIRA、中国と台湾、いずれの組み合わせも過去に何度も紛争やテロ、 政治的対立を繰り返してきた。

では何故、最近、これらの紛争が顕在化してきたのだろうか。ひとつの要素は 通信技術とマスコミの発達である。100年前の庶民は、地球の反対側で起きた テロ事件のことなど知るよしもなかった。しかし、今や24時間ニュースを流し 続けるテレビ局まである時代である。マスコミ関係者は世界中、血眼になって 「おもしろい」ネタを探し回っているのだ。そして、他人どうしの争いほど 「おもしろい」ネタは少ない。だから、チャールズ皇太子とダイアナ妃の不倫 騒動と同じようにチェチェン紛争に関する情報がお茶の間に届けられる。

もうひとつの原因は、以前にも何度か述べたようにソ連の崩壊と冷戦の終結である。 これによって世界の軍需産業は深刻な不況に陥った。民需転換といっても簡単には いかないから、彼らが手っ取り早く在庫を処分するために、紛争を煽るのはむしろ 自然な成り行きなのだ。パナマのノリエガ将軍、イラクのフセイン大統領などの 「問題児」が逮捕されたり、押さえ込まれたりした後にボスニア紛争が本格化した のである。ボスニアが一段落つくと、今度はチェチェンや北アイルランド、 カシミールや朝鮮半島が狙われているのであろう。

彼らは配下のマスコミ関係者を使って巧妙に紛争を大きくしていく。ちょっとした 暴力事件を「暴動」と報じ、それに対する過剰な警備体制を引き出していく。そう すれば、もともと火種があったところだから民衆の不満はつのる。そこへ、民衆側 の指導的な人物へのテロなどがあれば、本当の暴動になってしまう。 また、彼らは軍事的にも経済的にも無力な「反体制派」を物心両面で支援して、 「反体制派ゲリラ」に仕立て上げる。そして、起きるはずのなかった内戦が 始まるのだ。

本当に優秀な政治家が現地での実権を握っていれば、彼らの活動を簡単に 押さえることができるのだ。だから、いまだに第2朝鮮戦争は起こっていないし、 インドとパキスタンの全面戦争も起こらない。しかし、セルビアのミロセビッチ 大統領のように「自分たちが社会主義の最後の砦」と考えるような教条主義者が 指導者になっている国は、彼らにとっては扱いやすい。旧ユーゴスラビア諸国に 自由化のムードを作り出すだけで、彼は強圧的な手段で社会主義を守ろうとして ユーゴスラビアの解体を招き、クロアチアやボスニアのセルビア人を助けようとして 内戦を激化させてしまった。その結果、クロアチアのセルビア人たちは家や土地を 失ってセルビアに逃げ込まざるを得なくなった。そして近い将来、難民を受け入れた セルビア国内の経済の悪化を引き起こすであろう。そうすれば、ミロセビッチ氏の 社会主義体制を打破しようという「反体制派」が暗躍することになるのだ。

政治は現実であり、宗教やイデオロギーは理想である。宗教を現実と考えた者の 行く末は麻原彰晃であり、イデオロギーを現実と考えたのがミロセビッチ大統領 であった。


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